神々の黄昏後書き編

語られる事の無いギービヒ家の生い立ちについて、強制的に設定してみました。
具体的な記述がワーグナー自身していない部分が在るので(それらしい部分はもちろん在りますがここはあえてそれを避けて進める見解をします)そこを取っ掛かりとして構築してみます。 

ハーゲンの生い立ちに関わってくるので、意見の相違がありますが、ここは一つの考え方として認識してください。

 ハーゲンがグンター兄妹より後に生まれたとするならば(本筋では多分これがデフォルト仕様)グンターがそのまま長兄、当然グートルーネは姉にあたり、その後二人の母はアルベリヒと結婚ということになり、アルベリヒを義父として奉らないのは不自然なので、ハーゲンは連れ子ということでしかも年齢的には年上ということにしてあります。
 ギービヒ家は名家の家柄ではるが、没落寸前であったところに、妖怪との合いの子を持つ大金持ちの女という世間的には後ろめたい家系との双方とのギブ&テイクが成立したと考える方が自然ではないかと。

ギービヒ家にとっては実をハーゲンの母親にとっては箔を取り今に至れりということです。
 本来ならば粗ギービヒ家の財産はハーゲン自身に帰するのに名家と言う家柄の蓑を被る為それを表立って主張できない歯痒さ、妖怪の息子という自分の力ではどうにも成らない負い目、父親が違うだけで家督を継ぐ弟、ハーゲンの心の闇はどんどん膨らむばかりでございます。
 彼は自暴自棄にならずここに秘めた闇を抱えたまま献身的かつ精力的に(指環に対するミーメの執着心以上にと付け加えても良いかも)ギービヒ家を支える。父親の言葉を信じて・・・・
 ジークムントと環境は違えども残された言葉に縋って生きていく姿は似ている気がします。
ただ違うのは剣ではなく指環であり、それはある程度自分が画策して手に入れなければならないという付加属性が加算されてということです。

 他力本願的なジークムントと違い能動的という点においてハーゲンはある意味ジークムントよりも不幸な境遇に置かれています。(それゆえにジークムントは無心に信じていた父親(神)に裏切られて殺される息子という点で悲劇性が際立つのだけれど)
 ハーゲンは生まれ落ちた時からの指環の犠牲者であるが故にその闇は深くハーゲン自身に刻まれジークフリートを取り囲む。


 ハーゲンの生い立ちについての設定。
前文は通りが良い様な解釈をしていますが、ハーゲン出生の設定を元の順番と言う形に直すと、グンター、グートルーネ、(余談ですがこの二人は双子と言う設定も考えられます。
何故ならばジークリンデ、ジークムントの組み合わせを考えると同じ文字からスタートというワーグナー好みの「字の組換え遊び」の雰囲気があるからです)父親違いでハーゲンと言う順番になります。

 グンターがしきりにマザコンぶりを発揮するに至り「グリムヒルト」と言う存在は彼の父親よりかなり大きかったような、従って考えられる想定としては、グンターの物心つく前に父親が亡くなって家は没落寸前であったと。
(成り上がりという設定も考えられるけれど眠りに付かされるブリュンヒルデがギービヒ家を知っているあたりそれなりの名家であったことが考えられます。)
 
 これが其の侭裕福であったならばアルベリヒの誘いを断れたでしょうが、アルベリヒの子を宿すにあたり背に腹は変えられませんということでしょう。
基本的に運が味方しないと種付けは一回では成功しないので妊娠兆候が出るまで一時的にアルベリヒが義父として、ギービヒに迎えたという経緯も在ったのではないかと。
そう考えるとエディプス・コンプレックスをグンターは引きずらずにはいられなくなり、その子供であるハーゲンをある程度憎しみを込めた瞳で見つめるはずですが、最後のところぐらいしかその点が現れません。
前半では全幅の信頼をハーゲンに寄せているところが何かしら痛し痒しなんですけれども。
(最後のシーンは隠れていた感情の噴出とも言えますが)

 ともかくアルベリヒの齎した財産は恙無く再びギービヒ家を復帰させるに至り、グリムヒルトはハーゲンを育てます。妖魔と関係を持ち子まで宿したとなると、その辺あたりも家名に色濃く影を落とし、それを払拭するのにも最終的にはアルベリヒの持参金が使われでもあろう。
 在る意味其処まで華々しい活躍をしたくらいであるが故其の侭グリムヒルトが生存していてもおかしくは無く、彼女は居ないということは一応自然死であるならばグンターとグートルーネがいい年齢に達しているであろう。
(少なくともジークフリート以上の年齢)

・・・ああ何かグリムヒルトの冒険というSSが出来そうな勢いですが・・・・
という以上の設定が考えられます。

更に付け加えるならばジークリンデの様に出産の際産後の肥立ちが悪く亡くなってしまった、というシチュエーションも考えられますが、妖怪の子が生まれて王女が亡くなった―-情報隠蔽や、王家の血筋、とか考えると(載せていい情報かどうか分からないけれど例としてドダイ氏の子供を身ごもったダイアナ妃の例がありますね。・・・)生まれた時に「不適切」という事で闇に葬ることが一般的です。其れが無いという事は産んだ女王の保護が在った、それとも妖怪の夫の介入が在ったとか、とか考えられます。

随って産後直ぐに亡くなったというシチュエーションは考えにくいです。

話を元に戻すと、(G兄妹が先に生まれハーゲンが後という状態)この設定を選ばなかったのは、其の侭だとジークフリートがグートルーネに求婚をするあたり婚期の遅れた熟れた熟女では可哀想かなという思惑と、(描いていてそれだと一寸嫌だし)妖魔の子を持った女の世間的弱者で在るため、政治的保護を求め名と実の結びつきがより実用的という思惑と、ハーゲンの心の闇さ加減を推し量れる材料と、(ファフナーと同じで乱暴者の弟が兄の命を狙う二重性という点に関しては取り入れたいところではあるのだけれども)やはりワーグナーの居た時代は父権政治そのままですので、一時的にせよアルベリヒを奉らない行動からして、上記の設定を取るのを止めた次第です。
 
その後のギービヒ家の父親、母親の消息は第二幕第一場に用意しました。 ハーゲンに義父と母親を妖魔の親父の仕業に見せかけた殺害を作ってあります。
(ハーゲンの思い通りにギービヒ家を操るためには如何しても邪魔な存在なので、手段のためには母親まで手を掛ける悪役ぶりを加味させ、ジークフリートの二重性(義父殺し)をも意図的に掛けたかったというのもあります)

やり過ぎ?



ブリュンヒルデによるジークフリート無敵の魔法の説明

魔法とは、物語上のシステムが存在し勝手気ままに使えるという訳ではないのが暗黙の了解であり、それを破ろうものならばたちまち物語上の破綻を巻き起こし積み上げてきた嘘のリアリティが崩壊し物語を一気に詰まらなくしてしまいます。
ファンタジーの世界では魔法を使う場合大抵等価計算と触媒というある意味現実の数学以上にシビアな表に現れない数字が存在します。(それゆえにゲームシステムの中では有効なのである意味その存在が無くてはならないものになっていますが)
その等価値をどう処理するかが作品のできに関わってくるような気がします。
 そのような訳で、ジークフリートを無敵の呪文を掛ける魔女のブリュンヒルデを描いてみました。

 精液と血両方とも命の根源を現すものですから触媒として使いまわしてみました。
 で更に
復讐の女神としてフリッカを使ってみました。一応ここの設定では月の波動の女神なので、鏡を持たせています。・・・そう丑の刻参りの姿です。
三本の鼎は均衡、慈悲、峻厳、を表し生命の樹です。丑の刻参りの最大の肝は鏡、まあそれ故に逆さ十字架に掛けられたジークフリートに、ギービヒの家紋に逆さ十字なのですけれども。
 カッバーラを齧った人にしか解らないネタですみません。

ハーゲンの持つ武器は槍、ですが。
バルディッシュでも無く、長槍(ランス)でも無く、サイスでも無く、薙刀でもありません、本来は。
毒を塗りたくった穂先と言う風に設定しても良かったのですが、毒はプロレスでいう、サブミッションのようなもので、小説とか文字とかで表すと物凄く効きますが、どう見ても派手ではなく、地味且つ陰険で解り辛いため、槍サイズの銛にしています。
大変な重量を持つにいたるであろうことは、想像に難くなく、それを軽々と使いこなす所がハーゲンの膂力と表したかったのですが、全然それらしく見えていません・・・・・
ハーゲンの槍が何ゆえあのような物に表したかというと、槍だと突き通すまでの破壊力はからです。
その理由としては第三幕第二場でジークフリートが殺されるとき逆さ十字を背負い樹に縫い付ける仕種をさせたかったからです。
 文字的、文学的講釈でジークフリートが「喉が渇いた」でキリスト最後の晩餐を導き出した論文を読んだ時「そこまで、引っ張るなら演出的効果もあっても良いのではないか」が根底にあります。彼の論文にはカッバーラ的思考回路が存在していない為、表層を撫でた感じにしか取れなかったのである意味色々仕込んでいます。
 単純な考え方のやり方だとハーゲンの槍をロンギヌスの槍に見立ててどうのこうの・・・・・

それゆえに逆さ十字背負わせて樹に背中から縫い付ける必要がどうしてもあったので。ある意味釘の代わりといっても良いですが。

北欧神話のラグナロクを語る上での出発点というべき光の神バルドルの死を念頭に置くとジークフリートは川辺で荼毘に附されるよりも、死出の旅立ちに船がより相応しいと思い変えます。
(実際黄泉の国に旅立つバルドルは船に乗せられていますし)後はローゲのやんちゃ振りをいじっています。
 最初ストーリィを読んだ時ブリュンヒルデが指環ごとあぼ〜んして、目出度し、神々の国は危機から救われたじゃないのかいと正直思いました。
 (救済のモチーフが流れているし)
普通の物語の経緯から考えると「決して終わらない話」(指環物語だって、ある意味激しい動乱であっても世界は崩壊しないし)を紡ぎだすのが一般人好みで、此れで神の国は安泰という結末で結びたがります。
 ワーグナーにしてはローゲがワルハラを蹂躙していくと説明してあるのにならば肝心の神々を狙うニーベルング族がワルハラに辿り着かないのはどういう訳?とも考えたことは在りませんか?
 アルベリヒ、マダ〜?チンチン(AA省略)
一番の矛盾点が早い段階でブリュンヒルデがヴァルトラウテの忠告を受け入れ指環がラインの娘に返還されたとしたら神々の崩壊は防げるが、ローゲは如何なる?
あのまま燻っているだけ?
槍の契約が崩壊した時点でローゲはワルハラに飛んで行っても可笑しくは無い。
と更に突っ込みたくなります。

 で、それなりの理由付けを後世の人間は考えなければ成りませんし、考えたほうがただただ踏襲してゆくよりもずうっと指環の世界が楽しくなると思います。
 私の場合それなりの答えが魔術の等価性に辿り着いた訳です。
ワルハラの幕引きをするのはニーベルングでは無くローゲである所以はワルキューレで危険なローゲの炎の契約(賭けを含む)を結んだことに起因し、呪いが解ける前に呪いによってブリュンヒルデが斃れた場合に束縛から解放され、望んで止まない神々の焼却を許すと。
 つまりブリュンヒルデの結末は二重の意味を持ってワルハラに放火する。
別な言い方をすれば指環だけ捨てれば神々の世界は安穏を迎えブリュンヒルデは鬱々としながら生き延びるということも選択肢として存在する。
 そんな冷静さを持っていればここまで貶められることの無かった炎の姫ですが、やはり、ここは愛ゆえに地獄を彷徨い選んでしまった誇り高い彼女はやはり死の選択しか残されていなかったのでしょう。
 男尊女婢的物言いを許してもらって、歪んだ見方&穿った見方をすると女のヒステリーに振り回され神々以下燃やされてしまったということも言えそうです。

 それでも、ローゲの宿願を叶え、ニーベルング族の指環の呪縛から解放し、自らの死を持って神々に復讐を果たすブリュちゃんは気高く、美しいです。
 
 此れをもって指環を終わらせたいと思います。