ニーベルングの指環 

第二夜ジークフリート
Der Ring des Nibelungen

Siegfried

 全3幕

怖れを知らぬ若者、ヴォータンの孫:ジークフリート

ニーベルング族の矮人(こびと):アルベリヒ
アルベリヒの弟、ニーベルング族:ミーメ
さすらいの旅人、主神、戦神の仮の姿:ヴォータン

ヴォータンの娘、ワルキューレの一人:ブリュンヒルデ
ブリュンヒルデの母、智の女神:エルダ

森の小鳥

 

元はウォルスング・サガによる。

ブリュンヒルデは別な伝承ではシグルドリーヴァだったりする。

ヴァルキュウリアはオーディンの言いつけを破った為、
(何故眠らされたかについての文献は存在しない)
バラの刺に刺され眠り続ける。
そして男の求愛によって目覚める
(森の眠り姫の原型の話にあたる。)

出典「エッダとサガ」谷口幸男

 

 

第一幕

此処に一人の矮人がいます。

彼もまた指環の力に魅了された者でした。

彼はニーベルハイムの地下世界から大蛇に姿を変えたファフナーがいる森へと住居を移し指環を奪う機会を窺っていました。

しかし、彼、ミーメは苦悩しながら呟きます。

ミーメはヴェルズングの血を引く若者に手を焼いていました。
並外れた膂力を持ったジークフリートにとっては、彼の作る剣という剣はみな子供の玩具扱いにされ
彼のプライドはずたずたでした。

ミーメはその若者ジークフリートに父親であり、愛さねばならない存在であり、お前を育てた恩を忘れるななどと毎日しつこく言い聞かせます。

彼には大蛇となっている巨人ファフナーを倒すことが出来るのはかの天帝の血を引くガキ以外ありえないと知っていたからです。
その子供の力で、ファフナーを殺し、あわよくばファフナーの持つ指環を手に入れようとする深謀がありました。

 

ある時ジークフリートは自分の姿と親父の姿が余りにも違いすぎる点に気がつきます。
すると連鎖反応的にジークフリートはミーメが本当の父親でないことまで、考えがいたり、本当の父親は誰であるかと問い詰めます。
此処まで来るともう誤魔化しがききません。

ミーメは知りうる情報を自分の都合のいいように漏らし始めます。

 ある日、森にジークリンデという妊婦が此処を尋ね、難産の末に一人の男の子を産み落とした、その子にジークフリートと名づける様にたのまれた、そしてその女は息絶えたと。

しかし、ジークフリートは今の今まで嘘を尽き通されたミーメを信用できません。

そこで仕方なくミーメは証拠の品を出します。

 

これはお前の母親が世話になったお礼だと言って渡されたものだ。おまえの親父が戦場で奮い、そして砕かれたものだ。

 

と言いノートゥングの破片を見せます。

ジークフリートは実はミーメが本当の親ではなく、そして自分のために母親が残した剣を見て感激し、今日中にそれを鍛え直せとミーメに命じると森の中へ去っていきます。

 

残されたミーメは途方に暮れました。 
ノートゥングを接ごうとして今までに何度失敗したことでしょう。
 どんなに炉熱を高めても、その欠片はまるでミーメを嘲笑うかのごとく一向に熔け出す様子はありませんでした。
ミーメ自身も呪いの支配下にあるため、その剣は拒絶するのです。

ミーメが炉端に肩を落として座り込んでいると、長いマントに大きな帽子を被った旅人が訪れました。
 この流浪の旅人を装ったヴォータンは、ミーメに対して賭けを持ちかけます。

 その賭けとはミーメが三つの問いを出して、流離い人が答えられなかったらこの首はミーメの物だと言うものでした。

旅人の正体を知らないミーメは賭けに応じます。
ミーメは流離い人が人間だったら絶対答えられないであろう質問を考えます。
地底に住む者、山に居る者、天上の世界に蔓延る者は誰であるかと。

それぞれ、流離い人は答えます。
地底に蔓延る者共、山に居る物、そして、天上を統べる者と答えた時に軽くおまけをつけます。

そしてミーメはようやく三つ目の問いに答えた流離い人は実はあの天帝だったと悟るのです。

ミーメの三つの問いに苦もなく答えたヴォータンは、今度はミーメに向かって問いかけます。今度はお前の番だと。


「辛くあたりながらもヴォータンの最も愛する種族は?」

 「ヴェルズング族」

「ファフナーを殺すための剣は?」

 「ノートゥング」

「では、誰がそのノートゥングを甦らせるのか?」
ミーメは、いま置かれている状況を思い出し、頭を抱えて転げまわります。


これを見たヴォータンは、哄笑しながら、「怖れを知らぬ者のみがその剣を鍛えられるのだ。
 お前の首はその者に預けよう」と宣託して去っていくのでした。

そこにジークフリートが戻ってきました。
 彼こそがまさに怖れを知らぬ男である事にミーメは気付きます。
ミーメがいくら怖れを教え込もうとしても、理解しようとすらしなかった若者が、ミーメを押しのけて鋼を接ぎます。
傍らで、ミーメは首を獲られることを怖れ、こっそりと毒薬を調合します。
ミーメは自分の命が危ないながらも自分が指環をその手にした時を夢みます。
自分はたいそう賢く危機を切り抜け莫迦なジークフリートを出し抜く自信があると思っていたからです。

そしてとうとうノートゥングが甦りジークフリートは鉄床諸共、真っ二つに叩き切ってしまいます。その威力にミーメは圧倒されてしまいます。

 

 

第二幕

 

鬱蒼とした森でアルベリヒが大蛇ファフナーの棲む洞窟のそばで、何時果てるとも無い焦燥の時間を過ごしています。

そこにヴォータンが現れました。
アルベリヒはヴォータンに、自分の指環を奪ってヴァルハラ築城の支払いに充てたことを詰ります。
しかしヴォータンはそれには構わず、やがてミーメが若い英雄を連れてここにやって来ることを告げました。

お前は、契約として巨人族に支払ったものを自分の手を汚さずに奪い返すために、その英雄の力を借りようというのだろうとアルベリヒ。

儂は指環が誰の手にあろうと興味はない。
 その英雄にしても同等だ。 
お前の気を付けるべき相手はお前の弟君ミーメだ。 ミーメこそがファフナーの指環を英雄の手を借りて奪おうとしていると忠告します。
儂は指環を廻る闘争から降りた。
後は勝手に遣ってくれと言います。

しかしアルベリヒは信用しません。
散々言葉の弄して、自分から指環を奪った張本人ですから。

ならばと。ヴォータンは寝ているファフナーを起こします。

危機が逼っている故、その危機を取り除いてやろうと持ちかけます。
その誘いにアルベリヒも同様にファフナーに語ります。

今や、無敵のファフナーにとって其れは在り得ない事でしたので、まったく相手にされません。

この提案を持ちかけたのだから儂の真意は理解できただろうとアルベリヒに説きます。

後はしっかり頑張れと言い残し哄笑と共に去っていきます。

 

夜が明けます。

ノートゥングを手にしたジークフリートを連れてミーメが洞窟にやって来ました。

いいか? お前はここで初めて怖れというものを習うのだ。
 お前の心のなかに怖れるという感情が芽生えた時に初めてこのミーメの愛がわかるようになるだろうさ。

とにかくミーメの言葉が鬱陶しくて堪らないジークフリートは彼を追い払います。
 ミーメはミーメでジークフリートがファフナーと相討ちになることを望んでいるのでした。

 囀りはじめる小鳥たちに芦笛を吹いてやったジークフリートは、水を呑みにあらわれたファフナーと遭遇しました。
 鎌首をもたげてはるかに見下ろす大蛇の姿を見ても、ジークフリートの心に怖れはありません。

尻尾を斬られてのたうちまわり、のし掛かろうとした大蛇の心臓めがけてノートゥングが閃きました。
 断末魔の叫びをあげてファフナーが息絶えます。
 自分が無敵であったはずと信じていたものが崩れるとファフナーは遅まきに悟り、また賢くなります。
しかし、彼にとって総ては終わっていたのです。

ジークフリートの行動が欲に衝き動かされて行なったものではなく、誰かの指しがねであることを見抜き、ジークフルートに警告を発します。
しかしファフナーはそこで息絶えます。

ジークフリートはファフナーの心臓に刺さっているノートゥングを回収しようとし、引き抜きます。

そのときです。その返り血がジークフリートの指に着き、余りの熱さにその指を口に咥えます。

するとどうでしょう。
その血を舐めるないなや、樹々にわたって騒いでいる小鳥たちの啼き声が言葉として聞こえてきました。
 その言葉をたよりに洞窟の奥にジークフリートは入っていきます。

 

ファフナーの死を確認したミーメはジークフリートに続いて洞窟にはいろうとしますが、兄のアルベリヒに邪魔をされます。
奴隷であったミーメが英雄の陰に隠れドサクサに紛れてまんまと指環でも手に入れてしまう事はアルベリヒにとってそれは絶対許せないことだったのです。

言争いをしているうち怖れていた二つのものを携えてジークフリートは洞窟から出てきます。

ミーメはアルベリヒにジークフリートに直談判でもすればと嫌味を効かせながら、その場を去ります。

一方ジークフリートは森の小鳥の声に、耳を傾けます。

 

小鳥はこう警告します。

 

ジークフリート貴方はあの嘘つきの矮人を信用してはなりません。
貴方は血を舐めた事によってあの者が何を考えているか分かるはず。

 

躊躇いつつミーメは毒を入れた水筒を手にジークフリートに近寄ります。
ミーメの奸計を見抜いたジークフリートはその首をノートゥングで打ち払います。

日が高まり、木陰でまどろむジークフリートに小鳥たちが歌いかけます。

やあ、ジークフリート悪い矮人を倒しね。

そしたらば英雄に相応しい花嫁の在所を教えよう。

天上近くの岩山の上、世にも美しい女の人が眠っている。

けれどもその周りでは焔が燃えている。 

臆病者には近づけない。 

怖れを知らぬ英雄のみがその炎を越えることがゆるされる。

そして花嫁を起こせば、ブリュンヒルデは彼のもの。


ジークフリートは小鳥たちに導かれて岩山に向かいます。

第三幕

 

 

ヴォータンが嵐の中の荒野を駆け抜けブリュンヒルデが眠る聖なる岩にたどり着きます。荒涼とした風景が広がり激しい雷雨が吹き荒び岩山を打ち付け風景に華を添えます。

槍を手にしたヴォータンが立ち現れ、智の神エルダの名を召還の歌の魔力を持って呼び寄せます。

すると洞穴から仄かに青白い光りと共に黒髪を靡かせたエルダが姿をあらわしました。

神々の黄昏について智慧を求めるヴォータンに、エルダは例によってノルンに尋ねなされといいます。

しかし、今や新しき運命が開きつつある為役には立たないとヴォータンは言います。

ならば自らの子、ワルキューレのブリュンヒルデに直接聞きなされと言いますが、娘が罰せられ無防備な眠りにつかされていると聞き、すでに、事態は自分の及ばぬ所まで流転してしまったのを知ります。

エルダは自分の娘の罰を嘆き神々の未来はわからないと突き放します。

彼女は反抗を教えた者が反抗することを許さないヴォータンの矛盾を暴きたてますが、聞き入れられるわけもありません。

ヴォータンもまたすでにエルダの智慧が役に立たなくたっているの感じ取ります。そうなるとエルダの召還はもう意味を成しません。

ヴォータンは彼女の望む通りに智の眠りにつかせます。ヴォータンの本心はもう既に神々の遺産をジークフリートに渡すつもりでいたのです。この気高い若者が世界を救い、ブリュンヒルデと結ばれるのだと。
やがて、雨が止み、雲の隙間から月が覗いています。

そしてその岩山にジークフリートが現れました。 
幾ら待ち望んだとはいえヴォータンは其の侭行かせはしません。
何故なら炎を越える者は神を無力にしてしまうからです。
自分が待ち望んだ神々の桎梏から解放された真の英雄となったジークフリートにヴォータンは満足げです。
然しその若さゆえの性急さに、ヴォータンの怒りに火を付けます。
一方ジークフリートの方も抑えるつける事しか能が無い老害老人達にいい加減辟易していたので、力ずくで通ることにします。

かくて旧勢力の力と新しい力がぶつかり、神の契約の槍は砕かれます。

神々はもう無力であると知ったヴォータンは槍の破片を大切に持ち帰ります。

 

そしてジークフリートは炎の山に向かいます。

炎を超えた時点で空は朝焼けを迎え、日が差し込みます。

ジークフリートそこに輝く武具に包まれた人間が横たわっているのを見つけます。

彼はその人に近づき、その顔を覆っていた兜をはずします。

すると、美しい巻き毛の人が現れました。更に鎧を外すとその肢体から女であることを知ります。その麗しい姿はジークフリートにかつて味わったことの無い怖れという感情を覚えさせたのでした。

ジークフリートは彼女を目覚めさせようと努力しますが、起きません。
絶望的な気持ちになって彼女の唇に唇を合わせます。

すると彼女は目を覚ましました。 
眠れる姫ブリュンヒルデは目覚めたのです。
彼女は彼女の希望通りのジークフリートに会え感激します。
これまでの経緯を語りますがそれは逆に何のことか分からないジークフリートを不安にさせます。

ブリュンヒルデは身を守る術を持たない嘗て無い孤独につつまれますが、ジークフリートは優しくその心の糸を解きほぐし、彼女に求愛します。

 

そして彼女は神々の栄光を捨てジークフリートともに生きて滅びることを決意し、ジークフリートの愛を受け入れ、二人は無事結ばれます。