ニーベルングの指環 

第三夜 神々の黄昏
Der Ring des Nibelungen  

Gotterdammerung

序幕と3幕   
三人のノルン:第一のノルン過去担当

三人のノルン:第二のノルン現在担当

三人のノルン:第三のノルン未来担当

ウェルズング族の英雄:ジークフリート

ジークフリートの妻、元ワルキューレ:ブリュンヒルデ
ギービヒ家の当主:グンター
グンターの異父兄弟、アルベリヒの子:ハーゲン
グンターの妹:グートルーネ

ニーベルング族の王:アルベリヒ

ワルキューレ:ワルトラウテ

ラインの娘:ヴォーグリンデ

ラインの娘:ヴェルグンデ

ラインの娘:フロースヒルデ





序幕

かつてワルキューレたちが集った岩場の上で三人のノルンたちが運命の糸を紡ぎながら、
これまでの経緯を語ります。

過去担当のノルンが歌います。

嘗て此処には豊かに生い茂ったトネリコの巨木があった。
その巨木の袂には智慧の泉が懇々と湧き、
そこで、わらわは運命の紡ぎを歌った。

ある日大胆な神が此処を訪れその智慧の泉と引き換えに片目を代償として支払った。

その神はトネリコの一部を引き千切り其処から槍を作り出した。
だがトネリコの巨木はその傷が原因で、
とうとう枯れ果て、運命を紡ぎだす役目を果たせなくなった。

 

現在担当のノルンが引継ぎます。

その神は神聖なるルーネを槍に刻み、
それを持って世界支配の証とした。

在る日世界契約の槍が一人の英雄によって砕かれた。

それにより碇を失った世界は神の制御をはずれ暴走しはじた。
なす術も無いヴォータンは、ワルハラに集う英雄達に命令した。
枯れたトネリコの巨木を切り倒し、
粉々に切り裂けと。

そうして、それに伴い智慧の泉の呟きも消え、涸れ果てた。

 

未来担当のノルンが締めくくります。

巨人の手によって建てられたワルハラには錚々たる英雄達に彩られ、
その中心に座したヴォータンが神々や、
戦場乙女を従えひたすら刻を待ち続けます。
その城の周りには白骨の如き、
切り倒されたトネリコの薪が堆く重ねられています。
やがてその薪に焔が取り付きワルハラは紅蓮の炎に包まれるでしょうと。


こうして一つの輪が閉じました。

 

そして、次の輪を紡ぎだすべく第一のノルンに渡します。

今や過去の事さえもぼやけて見えなくなってしまった状態を嘆き、
炎として存在していたローゲの行く末を切り出します。

 

第二のノルンが、ローゲの今の姿を現します。

ローゲは神々の奴僕でいる事を嫌いそこから逃げ出そうとして、
世界契約の槍を齧ることによって智慧を得、
神々に入れ知恵することによって、
其処から逃げ出した。

しかし、ヴォータンが槍の穂先に魔力を集め再び虜にしてしまったのです。
今度は神の滅亡と引き換えに、
今度は焔のまま燃え続けよと。

 

第三のノルンが映し出します。

ワルハラに桎梏から開放されたローゲが姿を現し、
ヴォータンは手にした砕かれた槍でその胸を突き刺すであろう。

打ち捨てられたローゲの死体の胸から焔が開放され、
その焔がワルハラ城を紅蓮の炎に包むであろう。

 

こうして第二の輪が閉じます。

 

さらに過去担当のノルンが総てを完遂すべく、
第三の輪を紡ぎ語ります。

嘗てラインの川底から黄金を奪ったアルベリヒが運命の糸に絡みだします。

第二ノルンがその糸を解き解そうとするのですが、
指環に懸けられた呪いが、
運命の糸を弱らせ腐らせてしまいます。

未来に継ぐべく第三のノルンがその糸を編み、
読み込もうとしますが、
もはや、運命の糸は耐え切れず切れてしまいます。

 

こうして永遠の智慧は滅びました。

何も出来なくなったノルン達は、エルダの元に還ります。

然し未来が読めないからといって時は流転を止めることなど決してありません。

神々の手から離れた日はこうして始まるのでした。

 

朝焼けがワルキューレの岩に広がり、
そこでは、ジークフリートとブリュンヒルデが華々しく別れの挨拶を交わします。

そこでは初めて、憎しみでは無い、無欲の愛に裏打ちされた指環の譲渡がジークフリートから、ブリュンヒルデになされます。

ブリュンヒルデは感激し、その代償にとして、自分の愛馬グラーネをジークフリートに捧げます。

もはやジークフリートは以前とは違いブリュンヒルデの智慧を与えられ賢くなりました。

ブリュンヒルデの存在あってこその完全体と自覚するのです。

彼は自分の力を世界に試すべく此処を後にします。

「行ってらっしゃい」

「行ってきます」

ジークフリートの後姿を何時までも見送っているブリュンヒルデでした。

 

第一幕

 

ライン河畔にあるギービヒ家の邸の広間では、
当主グンターとその妹グートルーネが、ハーゲンの提言に耳を傾けていました。
ハーゲンはグンターと母は同じ異父兄弟ですが、
父親はあの指環をつくったアルベリヒです。
持ち前の父親譲りの豪胆さと策略の緻密さにおいて、
ギービヒ家を押しも押されぬ家門に仕立て上げた為、
グンターから、絶大な信頼があります。

面には現れませんが、
グンターの父親は没落していた名家であり、実がありませんでした。
そのため莫大な財産をもつ連れ子を持つ女と結ばれました。

その女は逆に箔を欲しがりました。
何しろ妖怪の子持ちですから。
迫害は在ったでしょう。

かくして両家の利害一致により、ギービヒ家の再興が成ったようです。

 

ギービヒ家の将来について問われたハーゲンは答えます。

お前が家督を継いで今以上の名声を望むのならば、
グンターは、神の娘と結ばれるべきであると。

だが、たとえどんなに勇気があろうと焔の山を越えてまではグンターには求婚は出来ないときっぱり言います。

此処に比類なき勇者が存在する、
その者は欲望の大蛇を倒し、
嘗て無い地の妖怪の莫大な財宝を手にした、
その者であったならば可能だと唆します。

グンターは手を届かないものをぶら下げても苛つくだけではないかと詰ります。

だが、ハーゲンは続けます。

その比類なき勇者をグートルーネの結婚を餌に言う事を聞かせさせるのだと。

グートルーネとて、比類なき勇者の妻になる事はやぶかさではありません、
でも、それほどの英雄ならば他の女が放っては置かないでしょうとごく一般的な意見を述べます。

ハーゲンはそれについて既に答えを用意してました。

ハーゲン所有の財産の一つには、
今まで出会った女総てを忘れさせる都合の良い秘薬が存在する。

 

それを用いれば、どんな英雄であろうとお前に跪き夢中になると。

 

兄妹はその提案に飛びつきます。
二人とも乗り気です。
グンターは神の娘の婚姻を結ぶことによって本物の名誉に、
妹には他の女たちが羨む様な類まれ無き勇者が夫となるのです。

 

丁度、その謀り事がなされている最中に
噂をすれば影でジークフリートがラインの川沿いに鳴り響く名家のギービヒ家を尋ねてやってきます。

 

陽気な音色で角笛を吹きながら、小舟を漕いでラインを渡ってきたジークフリートに、ハーゲンは呼び止めます。


ジークフリートはギービヒ家に尋ねる目的でした。

ジークフリートとしてはかくも名高い名家であるゆえ、
ある意味力で征服しようと考えていたからです。
ところがその名家の当主自身から手厚い歓迎を受け出鼻を挫かれます。

あろうことかジークフリートの臣下になろうとの申し出です。
すっかり心の武装を解かれたジークフリートにギービヒ家の美しい娘からの盃です。
断る理由もありません。

こうしてジークフリートは忘却の魔酒を口にしてしまいします。

 

彼はブリュンヒルデの存在あっての世界の救世主でした。
しかし、魔酒を飲み、ブリュンヒルデを忘れた瞬間から、彼はその座から滑り堕ちます。

グートルーネを見つめると恋におちます。

計略は成功に終りジークフリートはハーゲンの仕掛けた罠に嵌ります。

 

ジークフリートはグートルーネに焦がれ彼女欲しさに、出来る事ならば何でもしようとグンターに申し出ます。
グンターはそこで焔の燃えている山に居ると言う神の娘のことを切り出します。
ジークフリートはそれが自分の妻であったことをさえも、忘れ果ててしまったのです。

事が微妙な問題だけに彼らは義兄弟の絆を結びます。
ジークフリートが遠くの菓子であるグートルーネよりも、近くの果実ブリュンヒルデを選ばせない為です。
かくして自由な者は契約によって縛られてしまいました。

ジークフリートは一刻一秒でもグートルーネを手にしたいのでグンターを連れそのまま自分の妻を狩りに出かけます。

後に残されたグートルーネは夢み心地です。
ハーゲンの方もパーフェクトゲームだったので満足です。

 

一方、岩山ではブリュンヒルデは指環に魅入って一人で悦にはいっていました。

そのとき嘗ての懐かしい雷雲と共にワルキューレで彼女の姉のヴァルトラウテが現れました。 
ヴァルトラウテは、本来ならば此処に来ることは許されていないが彼女自身の考えで此処にやって来た事をつげます。

ヴァルトラウテは、父の命に逆らってまで衝き動かしたワルハラの緊急事態を、
ブリュンヒルデに伝えます。
神々の崩壊にたいして、もう神々自身が何も出来ないこと、そしてヴァルトラウテの懇願により父ヴォータンの心のうちをしったこと。

 

そして、指環のライン娘達への返還こそが、総ての災いから開放されるであろう事を訴えます。 

 

しかし、ブリュンヒルデの智慧は指環によって曇っていました。

これはジークフリートの愛の証し、神々の世界の安定よりもはるかに値打のあるもの、
例えワルワラが崩壊しようともこの指環だけは手放さないと。

 

妹のあまりの色惚けに、失望したヴァルトラウテは悲しみに暮れながら走り去っていきます。

 

彼女が去ったあとには、夕暮れが逼ってきました。
するとジークフリートの帰還を示す角笛の音が岩山に鳴り響きます。
ブリュンヒルデはジークフリートが帰ってきたのだと思い迎えに出ます。

 

しかし、其処に現れたのは見知らぬ男でした。男はこう語ります。

 

「お前を妻にする為に焔の海を越えてきた者で、名をグンターと言う。私に従え」と。

「暗くなったゆえ、お前と一晩過ごす。」

 

ブリュンヒルデは恐怖します。
ジークフリート以外のいかなる英雄も許されないはずの炎を越えて来た者は在りえないと信じていたからです。
それは父ヴォータンとの約束のはずでした。
彼女は父を呪いこのような運命を定めた神々を呪いますが、
事態は変わるべくもありません。

彼女は指環の力で追い返そうとしますが、
元々は隠れ兜で、グンターに姿を変えたジークフリートですから、
指環の表の力などは、問題になりません。
グンターの貌をした、ジークフリートはこの指環さえ奪えばこの女の拠り所が崩れると認識し、
そして力ずくで、冷酷無比にブリュンヒルデから奪い取ります。

指環を奪われたブリュンヒルデは茫然自失状態になり、
この男に従い体を開くしか運命は残されていないだと諦め、臥所に向かいます。

ジークフリートは後味の悪さを拭うため、自分の誠実の拠り所としてノートゥングを翳し

この女と切り離していた証となれと誓います。

そしてブリュンヒルデの待つ臥所に向かいます。

 

第二幕

 

ギービヒ家の屋敷では、ハーゲンが夜警についた状態で眠っていました。
其処にハーゲンの父親であるアルベリヒが現れます。

 

「わが息子よ眠っているのか?」と

ハーゲン自身も妖怪の息子であることを呪い、
金に目が眩み妖怪との間に自分を生んだ母さえも呪います。
陽気に能天気にのさばる者達もその対象です。
無論父親であるアルベリヒも例外ではありません。

アルベリヒはその呪いと憎しみこそが力なのだと説きます。

指環さえ奪えば、お前を呪ってきたものどもを見返すことさえできるぞと、囁きます。

だが、指環を奪う前にラインの娘たちの手に渡ったら総てが灰燼に帰すと、脅します。

神々の遺産は誰が継ぐのだとハーゲンは問います。

おまえとおれだ、とアルベリヒは断言します。

ハーゲンもアルベリヒ同様に「光り者」を嫌いなため、
必ず指環を奪うと自分自身と父親に誓います。

 

朝焼けの光の中静かに時が流れます。
そのときその静寂を破ってジークフリートが現れました。
眠っているハーゲンを起こすと、グートルーネに一刻も早く会いたいがため、
ブリュンヒルデの岩から隠れ兜の力を使い鳥に変化して、ここに来たのだといいます。

ハーゲンはグートルーネを呼びだし、ジークフリートの自慢話を注意深く聞きます。

グートルーネも、ジークフリートの切実に自分を思ってくれている態度を見て、
嫌なわけはありません。
彼女もジークフリートに夢中です。

ジークフリートはいかにしてブリュンヒルデを連れてきたかをグートルーネに語ります。

隠れ兜の力で、グンターに化け、ブリュンヒルデと一夜を共にしたこと、
でも、彼女には誓って手を出していないとつまびやかにします。

もうそろそろグンターとブリュンヒルデが小船に乗って還ってくるでしょうと締めくくります。

そのときライン河の遥か先で、ジークフリートの言うように船の影が現れました。

グートルーネとジークフリートは取り敢えず婚礼の準備のため、二人仲良くこの場を去ります。

残されたハーゲンは角笛を吹き鳴らし、
戦争用の緊急非常徴集を掛けます。
ギービヒ家の領地に住む、ギービヒの家臣達はその非常徴集に驚き、
城中が蜂の巣を突っついたように大騒ぎになります。

 

「国中の武器をもて!強い武器を、鋭い武器を、危機が逼っている」と煽り立てます。

 

緊迫した空気の中、家臣達が勢揃いします。

諸君!グンター殿様の危機が逼っている。

だが、案ずるでないジークフリートと言う英雄が危機の殿を救ったのだ。

 

拍子抜けした家臣達は問います。

ではこの軍隊はいったい何の為に徴集したのかと。

 

これからまず、神々に生贄を捧げよと繋ぎます。

飲め、歌え、これは良き縁を祝い神々に祝福される為だ、なにしろ神の娘をグンター殿様が娶ったのた。

家臣達は爆笑します。
つまりこれは絶対冗談など言わないハーゲンの趣向であり、目出度い婚礼の出席の知らせだと。

 

やがてグンターとブリュンヒルデを乗せた船が到着し、家臣達は出迎えます。

二組の婚礼が始まりました。
グンターとブリュンヒルデの組みは城の中に入場し、ジークフリートとグートルーネの組が迎えました。

 

俯いて絶望の境地にあったブリュンヒルデの耳にジークフリートの名が響きます。

驚いて貌をあげるとそこにはジークフリートがいて、見知らぬ女が共にいるではありませんか。

何故、ジークフリートがここに、しかも、ジークフリートは私を見て何も行動を起こさないとは。
ブリュンヒルデは混乱し、崩れ落ちます。
それを支えたのは、まごうこと無き懐かしいジークフリートの腕でした。

そして、彼女はジークフリートの指には自分から奪った指環があることに驚きます。

これは、グンターが私から奪ったはず、何故彼の手にと訝しがり、グンターに問い詰めます。

グンターは何の事だかさっぱり分かりません。
そうして、ブリュンヒルデは悟ります。
自分から指環と誇りを奪った張本人はジークフリートであったと。

ブリュンヒルデは訴えます。

 

この男が私の体と愛を奪い、指環を奪った盗人だと。

 

ハーゲンの用意した二重の罠に役者達は踊ります。

確かにジークフリートとブリュンヒルデは床を共にしていました。
然しそれはハーゲンの用意した魔酒を飲む前です。

ブリュンヒルデを屈服させる為、一緒に寝ましたが其処にはノートゥングが在ったとジークフリートは弁明しましたが、
家臣達はグンター当主の信義を汚したといきり立ちます。

とにかくここは事態を収拾する為、
ハーゲンの槍を持って信義に反すればこの槍で殺されるのも致し方ないと誓いを立てて取り敢えず収まります。

後に残されたのは、プライドがずたずたになったグンターと、
心が散り散りになったブリュンヒルデと
この陰謀を絵に描き、完璧を期するため、様子を窺うハーゲンでした。

ハーゲンは言葉巧みにブリュンヒルデからジークフリートの秘密を聞き出します。

ジークフリートは決して背中を見せない勇敢な男であったため、
安全の為に正面からの攻撃には無敵の呪を懸けてある事、
しかし、背中にはその呪は施していない事を語ります。

ブリュンヒルデの心の中にはもう既にジークフリートは死んでいました。

三人の思惑が絡みジークフリートの死をもってしかこの恥辱は漱ぐ事は出来ないという結論に達します。

方やジークフリートとグートルーネの二人はグンターとブリュンヒルデを婚礼の宴へと誘います。
グンターとブリュンヒルデはジークフリートの死を願いながら出席するのでした。

 

第三幕

 

人の手が加えられていない自然な状態のライン河の辺では日差しがさしています。
そこには例のラインの娘達が太陽に願いを訴え歌っておりました。

そこへジークフリートが河岸にやって来ます。
彼は熊を狩っていたのですがみうしなってしまったのです。

 妖精たちはジークフリートが、今一番欲している狩りの獲物と交換に指環をねだりますが、
ジークフリートは狩りの獲物がないからといって、
たかだか熊一匹と大蛇を倒して得た指環の交換の申し出ににべも無くことわります。

ジークフリートはそんなことよりも、ラインの娘達と戯れたかったのです。
しかし、愛を否定する指環の呪がジークフリートの心を頑なにさせます。

ラインの娘達は死が今其処まで逼っていることを警告しますが、
勿論聞き入れられるわけはありません。

 

莫迦は死ななきゃ直らないのです。

 

ラインの娘達と入れ替わりにグンター一行はジークフリートを発見します。

狩りの獲物が積まれ、昼食の準備です。

ジークフリートは一番のりで、出掛けた筈なのに獲物が無い為、恥ずかしげです。
ハーゲンはその機微を見逃しません。
酒嚢から酒を彼に注ぎ、リラックスさせます。

サービス精神旺盛なジークフリートは塞ぎ込んでいるグンターに対し気が晴れるならば、
私の不思議な昔のことを聞かせようと持ちかけます。

比類ない勇者の話です。

皆それに聞き入ります。

 

森の中妖怪に育てられたこと、
母と父の形見である折れた剣を甦られたこと、
大蛇を殺したこと、
その大蛇の返り血を舐めた事で小鳥の声が理解できるようになったこと、
自分の命を狙ったため、育てた妖怪を切って捨てたこと、

と語り継ぐにつれ、それ以上は思い出せません。

ハーゲンは記憶が定かに成るようにと薬を調合した酒をジークフリートに注ぎます。

彼は続けます。

炎の山のこと、そして其処に眠るブリュンヒルデのこと。

グンターは驚きます。
ジークフリートはすでにギービヒに来る前にブリュンヒルデと結ばれていた事を初めて知ったのです。

 

お前はこの鴉の言う事が判るのかとジークフリートの注意を逸らし背を向けた所に、
槍を突き立てます。
家臣達が止める間もなくジークフリートは倒されてしまいます。

 

我が槍は、偽誓を許さないと、この行為を正当化する言葉を吐きます。

 

ジークフリートの心に再びブリュンヒルデの焔が灯り、
彼は清らな者に戻りますが、
しかし、ファフナーと同じく彼には時間が残されていませんでした。
やがて静かに死んでいきます。

 

陽は傾げ黄昏のなかグンター一行は悲しみに包まてジークフリートを担ぎ、
ギービヒの城へと帰っていきます。

 

一方黄昏から夜に移りギービヒ家では胸騒ぎに襲われたグートルーネが起き出します。

グートルーネはブリュンヒルデの所在を確かめるべく彼女の部屋に行きますが、
其処は蛻の空でした。

ラインの河に向かった人影はやはり、ブリュンヒルデであったと確信します。

そんな時、ハーゲンの角笛が響きます。
グンター一行の帰還です。

グートルーネは、ジークフリートの角笛が響かないことに、不吉な予感を覚えます。

彼女の予感は的中し、そこにあったのは、ジークフリートの死でした。

グートルーネは兄グンターに対しジークフリートを殺したと責めます。

グンターはそれを実行したのはハーゲンであり、
我らはハーゲンに踊らされていたと言い放ちます。

ハーゲンは偽誓をしたジークフリートが原因であると弁明し、
彼の遺産である、
指環の権利を主張します。


グンターはハーゲンに呪の言葉を浴びせますがハーゲンは怯みません。

やがて、二人は争い、グンターは欲しくも無い指環を廻って殺されます。

そしてハーゲンはそのまま血塗られた手で指環をつかもうとします。

そのとき死者の腕があがりハーゲンを拒みます。
恥ずべき誓いに使われ力を失ったノートゥングが、ジークフリートをハーゲンの手から守るべく甦ったのです。

その奇跡のなか、静かにブリュンヒルデは現れます。

グートルーネはこの一連の災いを招いたのは、お前のせいだと非難します。

ブリュンヒルデは貴方に会う以前からジークフリートは私と永遠の愛を誓っていたと語ります。

そのときグートルーネは総て悟ります。
ハーゲンが情報を偽り自分達がそれに踊らされていたことを。
彼女は恥て、ジークフリートから離れ、グンターの元に跪きます。

 

ブリュンヒルデはそれを聞いて些か動揺しますが、総ては終わったことでした。

彼女は家臣達にラインの川辺に焚き木を堆く積み上げジークフリートの遺体をそれに、乗せるようにと命じます。

 

ブリュンヒルデはジークフリートの指から指環を抜き取ると自分の指に填めます。

復讐の焔も消え、柔和な優しさに彼女は包まれます。

 

ジークフリートは私を賢くさせる為に裏切った。

私はもう何をすべきか知っています。

娘達よ、焔の中、私の遺体から指環を受け取りなさい。

 

そういって焔を焚き木につけます。
そして、グラーネ共々焔の中に消えます。

ジークフリートが倒れブリュンヒルデが死すことによって地上の神の血は絶えました。

其れにより契約が終了しブリュンヒルデの岩に封じ込めらた、
ローゲは自由になり復讐すべく天上界に向かいます。

事の成り行きを見守っていたハーゲンはラインの水嵩が一気に盛り上がりギービヒ家を飲み込むなか、
ラインの娘達を認め、指環に触れるなといい、水の中に入っていきます。

所詮は水の精と人間、敵う訳が在りません。
ハーゲンは溺れ死にます。

 一方天上界ではワルハラが総てを嘗め尽くす紅蓮の炎に包まれていました。

こうして、神々の世界は滅んでいったのでした。